ノーベル賞受賞者吉野彰氏の学位論文を指導した吉野勝美氏のこと
11期 押田良樹

吉野彰氏がリチウムイオン電池開発の業績により、ノーベル化学賞を受賞したビッグニュースは記憶に新しい。飾り気のない親しみやすそうな人柄もあって、一躍、時の人となり、年末の紅白歌合戦には、あの渋野日向子とともに審査員席に登場していた。
平成17年にその吉野彰氏が博士号を取得するにあたって指導教官を務めたのが、岸和田市在住の、我が近畿双松会の会員である吉野勝美氏(昭和35年卒:11期)であった。吉野彰氏の受賞は技術立国日本の実力を世界に示す嬉しい出来事であったが、その博士号取得にあたっての恩師が当会の会員吉野勝美氏であったということは、筆者にはそれと同じくらい嬉しく、誇りに思うことである。
同じ吉野姓ではあるが二人は勿論親戚ではなく、学会や研究を通じて以前から親しい間柄だったようである。(別添、山陰経済ウィークリー参照)
この機会に、吉野勝美氏(以下勝美氏)のことを、11期同期生として、少し紹介しておきたい。
勝美氏は玉造の玉湯中学を卒業して、昭和32年に松江高校に入学した。 
私事になるが、筆者は松江四中から松江高校へ入学し、配属されたクラスは英語の福岡憲一郎先生が担任の34ルームだったが、そのクラスに勝美氏がいた。
その時、福岡先生は3年前に島大を卒業されたばかりの弱冠26歳、我々の10年先輩にあたる新制松高1期生だった。



高校1年生の吉野勝美氏

当時の勝美氏は穏やかな顔つきで、笑顔を絶やさず、おっとりした感じで、ガリ勉の秀才タイプからからは程遠い印象だった。そんな彼が難しい電子工学の偉い学者になるとは思いもよらなかった。
勝美氏は昭和35年に松江高校を卒業して大阪大学工学部電気工学科に入学、昭和44年に博士課程をを修了して、以後平成17年に定年退職するまで、大阪大学で教育、研究に従事した。
勝美氏は、学術的な著書を勿論数多く上梓しているが、科学技術の世界には縁のない筆者は贈呈されても本棚の飾りにしているだけである。
一方で、記憶力が抜群であると同時に、大変なメモ魔でもある勝美氏は、それをもとにして、平成4年に「自然・人間・放言備忘録」と題したエッセイを世に出したが、その後も十指に余るエッセイ集を書いている。
いずれも、自己の貴重な経験談や、多くの友人たちの面白い行状等々について興味深い話が満載である。いずれを読んでも感心するのは、日常接する周囲の人物の観察が細やかであり、同時にどんなに些細に思える事象やモノについても、好奇心を燃やして追究することである。何事にも関心を持ち極めようとする心、いわば対象に対する愛情があるからこそ、あれだけの人脈を築き、研究成果を出すことができたのだと思う。
大阪大学退職後は、国内外の多くの大学や研究機関から熱心な招聘の話があったと聞くが、郷里島根を愛する勝美氏は、平成19年4月に島根県産業技術センター所長に就任し、郷里の産業活性化に貢献する道を選んだ。これには元シャープ副社長で「ロケット・佐々木」と言われた、浜田市名誉市民でもある佐々木正氏(平成30年、102歳で他界)の強い勧奨もあったと聞く。
以後、自宅のある岸和田と島根を往来しながら、郷里の産業発展に全力投入する多忙な年月を送ったが、平成30年3月末をもって所長を退任した。現在は特別顧問の職にあり、岸和田の自宅で長年の激務による疲労を癒しているところであるが、腰痛に見舞われているとのことで、一日も早い回復を祈っている。

なお、勝美氏には平成22年に中之島中央公会堂で開催された近畿双松会総会の講演講師をお願いし、〈「島根・松江の振興に微力を捧げる一刻者のつぶやき」〜あらためて知る魅力と誇りと可能性〉の演題で講演をいただいた。



平成2年、勝美氏の大阪科学賞受賞を祝って近畿在住11期同期会を開催した 


吉野勝美氏の略歴
昭和16年12月10日 島根県生まれ 玉湯小学校、玉湯中学校、松江高等学校卒
昭和35年 大阪大学工学部電気工学科入学
昭和39年 同卒業
昭和41年 大阪大学大学院修士課程修了
昭和44年 同博士課程修了
昭和44年 大阪大学工学部助手
昭和47年 同講師
昭和49年〜50年 ベルリン、ハーン・マイトナー原子核研究所客員研究員
昭和53年 大阪大学工学部助教授
昭和63年 大阪大学工学部電子工学科教授
平成8年〜12年 東北大学大学院工学研究科電子工学専攻教授併任
平成10年 大阪大学大学院工学研究科電子工学専攻教授
平成17年 大阪大学定年退職、大阪大学名誉教授、長崎総合科学大学教授、 島根大学客員教授
平成19年 島根県産業義塾センター所長
平成30年 同特別顧問

受賞
 応用物理学賞、大阪科学賞、電気学会功績賞,高分子学会高分子科学功績賞,日本液晶学会功績賞,IEEE(米国電気電子学会)フェロー,電子情報通信学会フェロー,電気学会フェロー,応用物理学会フェローをはじめ多数受賞
役職
 元日本液晶学会会長、元電気学会副会長など

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