文楽鑑賞会 第三部報告
22期 鶴羽孝子

@ 「新版歌祭文」(しんばんうたざいもん)
 知る人も多い「お染久松物語」。親が決めた結婚でありながらも久松に思いを寄せるおみつ、一方久松は奉公先の娘お染とすでに恋仲であり、結ばれぬことを覚悟し心中を決意します。それを知ったおみつは尼になって身を引き、お染と久松はめでたく結ばれるという物語。
 男女の恋愛は文楽の題材に多いですが、この当時は、結ばれぬ仲であれば「心中」、身を引くために尼になるという、現代の感覚では考えられないことですが、江戸時代にはこういうことがあったのでしょう。この時代の恋は命がけ、文楽独特のおもしろおかしい表現が、なおさら切ない恋物語です。

A 「日本振袖始」(にほんふりそではじめ)
島根県出身者にはなじみ深い「八岐大蛇」(やまたのおろち)の物語です。古事記に著されている神話に脚色がされており、私たちが知っているお話とは違う部分も多くありました。
素戔嗚尊(すさのおのみこと)は、八岐大蛇の化身である岩長姫に宝剣を奪われ、それを取り戻すために簸の川(ひのかわ)に向かいます。そこでは、妻の稲田姫が八岐大蛇の生贄に差し出されており、今にも大蛇の餌食になろうとしていました。稲田姫が着ている着物の袖の前部分を風通しがよいように切ったのが振袖の始まりということから、「日本振袖始」という題名がつけられています。
舞台には八つの酒樽が置かれており、大蛇の化身である岩長姫が樽に首をつっこんで酒を飲み酩酊していく、その様子を生々しく演じる人形、それを操る人形遣いの卓越した技に目を奪われました。その後、大蛇が姿を現し、稲田姫を呑み込んでしまいます。そこに素戔嗚尊が現れ、大蛇と激しい戦いを繰り広げます。大蛇が素戔嗚尊の身体に巻きついて危うい場面もあり、それをしのいで次々に大蛇の首を取るという展開、大蛇の創りや動きは「石見神楽」とよく似ています。
舞台の展開が速く迫力があり、語りの太夫も多人数のうえ、琴・二胡・笛・鼓などの楽器も加わり、エンタテイメント性が高く見ごたえのある作品でした。